実際に扱った事例のご紹介

相続の問題に関する事例

遺贈の承認をすべきか否かの検討の結果、放棄する選択をした事例

<相談内容>
相談者は、親の知人で子どもの頃に親しく交流していたものの、両親が亡くなった後は疎遠になっていた方が亡くなったことを、その方の遺言執行者からの連絡で知りました。その方は、奥様とともに遺産の一部を相談者に相続して欲しいとの公正証書遺言を残されており、遺言執行者から、遺言に従って遺産を受け取るか否かを1か月以内に決めて欲しいと求められたとのことで、どのように対応すべきかについて相談に来られました。

<対応内容>
遺言で他人に財産の全部または一部を無償で供与することを遺贈と言い、遺贈により相続財産を譲り受ける人を受遺者と言います。相続財産のうちの特定の財産の遺贈(特定遺贈)については、遺言執行者は受遺者に対して、遺言に従って特定の財産を受け取るか否かを、相当の期間内に決めるように求めることができ、決められた期間内に受遺者が何の意思表示もしなかった場合には、受遺者が遺贈を承認したものとみなされます。この場合、遺贈された財産の所有権が受遺者に移転することになりますが、それとともに受遺者が相続税を負担することになる場合があります。

相談者は、遺贈により受け取れる財産のほとんどが、知人が生前住んでいた地方都市にある山林であって相談者自身に利用価値がなく、処分して現金化するのも困難ではないかと考えられ、相続税を負担することになる可能性もある遺贈を受けることを躊躇していました。そこで、遺言執行者から遺産目録を入手して、遺贈を受けた場合に負担することになる相続税の額や山林の固定資産税の額を計算し、遺贈により受け取れる現金でこれらの税金を支払えるかを確認したところ、相続税の納税はできるものの、固定資産税は約3年程度しか賄えず、その後の税金は相談者自身の財産で払わなければならなくなることが判明し、相談者は遺贈を放棄することに決めました。

<弁護士からのアドバイス>
相続争いを防止するために生前に遺言書を作成することが勧められますが、法定相続人以外の人に遺贈をすることにすると、受遺者が他の相続人との間で協議をしなければならなくなったり、遺贈された財産に関する税金の負担をすることになる可能性が出てきます。特に、法定相続人から見れば、他人が受遺者に指定されてしまうと、自分たちが相続できたはずの財産が他人の手に渡ってしまうことになるので、遺産分割をめぐって受遺者との間で利害対立が生じることも想定されます。この相談者の事例でも、他の相続人とは交流がなかったため、遺言者の意向は有難く受け止めながらも、相続人を差し置いて自分が遺贈を受けてよいのかという葛藤を抱えて相談に来られました。その意味で、遺贈を考える場合には、受遺者と法定相続人との関係や納税義務の負担の点にも配慮が必要です。

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